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March 24, 2007

『忘れられた日本人』by宮本常一

忘れられた日本人

子供がいるわけでもなく、何かをなしとげたわけでもない自分が
もし、今、死んだら、その存在はほとんどなかったと同じなのだ
と思う今日この頃。
この本を読んで、昔の人は何とたくましく淡々と
自分の人生を送っていたことよと、感動したのでした。

宮本常一はいわずとしれた日本を代表する民俗学者。
今、ちょっと調べたら、宮本は漂泊民や被差別民、性などの問題を
重視したため、柳田の学閥からは無視・冷遇されたとか。
柳田って嫌な奴。
その宮本の代表的な作品がこの『忘れられた日本人』
もっと学術的なむずかしい本かと思っていたけれど、
民俗学というより人間にスポットをあてた一冊。

「対馬にて」では、村の寄り合いが大層、仰々しく、
著者に古文書を貸すにあたり、片道一里の村から
一時間かけて、三人の総代が船でやってくる。
それぞれきちんと羽織を着て、扇子を持っている。
それから何時間もかけて、古文書を貸すかどうか
えんえんと話し合う。
結局、貸すことになり、総代が、張箱にしるしてある封印をきって
蓋をあけ、中の冊数をしらべて、著者に渡す。
一度、村へもどった総代たちは、翌日、またやってきて
帳簿を張箱にもどし封印し、それぞれの浦へかえっていくのであった。
何と愛らしい人々であることよ!

「名倉談義」では、4人の老人が、名倉村がどのように発展してきたかを
話しているのだけれど、小笠原さんというおばあちゃんが
その合間に、チクチクと、嫁や今の若い人の愚痴をいうのがおかしい。

一番、ガツンときたのが「土佐源氏」
内容は、極道の末に盲目の乞食に身を落した
土佐の檮原の橋の下に住む元馬喰の老人の話。
それはほとんど小説であるといってもいい。
(佐野真一の『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』によれば
この話は老人の作り話だったらしいけれど。
佐野真一も余計なことをしてくれる)

歴史には、何かをなしとげた者の記録しか残されないけれど
こういう人々だって確かに生きてきたのだ。

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Comments

おお、これは少し懐かしい本です。読みましたよ。驚きましたよ。読んでいて本当に楽しく、生きていく勇気がわいてくるようなすばらしい本でしたね。
岩波文庫の最高傑作とも聞いたような・・。

じつは、私がいちばん初めに「たら本」参加させていただいたとき、これを紹介しました。
そういう意味でも、思い入れのある作品であります。

Posted by: shosen | March 24, 2007 at 18:51

>shosenさん
あ、ホントだ~。
「歴史もの・オススメ本」の時に紹介されたのですね♪
いやー、これは、思いもかけず、力強い本でした。
現代に比べたら、物もなく貧しいはずなのに、なぜか、みなさん、
楽しそうなんですよね。
つらいはずの田植え作業さえ、楽しそう。
現代は、物もあふれ、お金さえあればほしいものは何でも手にはいるはずなのに
なぜか、幸福に満ちあふれているって感じじゃないんですよねえ。
(それとも、そう感じているのは私だけで、他のみんなは幸せなのかっ!?笑)
なぜなんでしょう?
これって宗教的テーマだと思いません?

Posted by: LIN | March 25, 2007 at 11:16

こんにちは。
私も以前この本を読んだのですが、懐かしい日本がたくさんあったのを思い出しました。自分自身はここに書かれているような世界がいやで東京にでてきたようなことろもあるのですが、近代化によって捨てられていくもののよさをあらためて考えました。ちょっと田舎への郷愁を感じながら(笑)
それにしても宮本さんという方の体力と精力には感心させられますね。ただただ、記録し続けたことに敬服します。

Posted by: uota | March 25, 2007 at 13:09

宮本さんの本を読むと、「もうひとつの日本」があることがよくわかりますよね。
そして、「もうひとつの日本」は、表の日本のような単一国家じゃなくて、複雑な多数多様、雑多な人々の混濁した日本です。
「遊行の民」と一口に言っても、一枚岩ではなく、異様に多様性があって、複雑な交渉や駆け引きのある複数の集団らしい。

宮本常一が歩いた頃には、もうすっかり貧しい感じになっていますが、
おそらく中世後期から戦国時代にかけては、彼らはすごく豊かで、列島に流通する富を握っていた時期があるらしい。
われわれが今思ってるような意味での「日本人」ではまったくなく、倭寇なんかとも連絡があって、南蛮人もやって来るようになるし、
「国家」という単一体じゃなくて、「天下」という複数体で世界を捉えていたようです。

柳田国男はたぶん、嫌な奴ではないと思います(笑)
柳田は、民俗学という学問そのものを創生した人で、いわばマンガでいう手塚治虫のようなもの。
雑誌を作り、全国レベルでの研究者を育て、ネットワークを作り、一般人の興味も誘って、誰もが参加できるような、大きい船を作った。
最初の遠野物語はほとんど誰にも読まれなかったことを思うと、ゼロからここまで作り上げるというのは、異様な実務能力の高さです。謎めいたくらいの情熱があるんでしょうね。

宮本常一は、渋沢敬三の常民文化研究所にいたので、柳田系の民俗学とは別な立ち位置にいることができた。柳田の舟に乗らずにやっていける場所にいれたんですね。
だから、同じ民俗学といっても、だいぶ方法や流派がちがいます。このことは学問にとってはとてもよかったんじゃないでしょうか。

柳田や渋沢、中山太郎など、明治からの日本人が、どんなふうにして研究機関や学派を形成していったか、
…資金繰りや人材育成、人脈、書籍や外国研究者との関わりなど、調べると、新しい時代を作ることの難しさ面白さがわかって、かなり感動的にちがいないです。


Posted by: overQ | March 25, 2007 at 13:25

私もずいぶん前に読みました、この本。宮本常一はフィールドワークの人ですよね、柳田國男と違って。この人の「塩の道」という本を資料の一部にして去年エスノグラフィーを書きました。「塩」というのがいかに大切で、歴史の裏には塩があるという大変興味深い本でした。おすすめします。

Posted by: Miwako | March 26, 2007 at 01:00

>uotaさん
確かに、現代の暮らしというのは便利なわけですが、
その便利さと引き換えに何かを失ってしまったような
気がしますね。
uotaさんは佐野眞一編集の『宮本常一』も
お読みになってるのですね。
その記事に「民俗学に酷く心をとらわれるこのごろ」
とuotaさん、お書きになっていますが、
私もなんですよ~。
民俗学の通信教育みたいなのがあればいいのになあと
思います。

Posted by: LIN | March 26, 2007 at 13:24

>overQさん
私たちは、学生の時に、ざっくりと日本の表の歴史を習うわけですが
それでは知りえない裏の歴史(民俗学)がたくさんあるんだなあと
思いました。
overQさんが、今、調べていらっしゃるサイの神などもそうですよね。
民俗学って最近はどうなんでしょうか?
柳田たちの頃のような勢いはないような…
日本は戦後、アメリカに追いつけ、追いこせで、
わざと昔の日本を振り返らずにきたような気がします。
そろそろ、日本も、アメリカから卒業して
日本自身を見つめる時が来ているのでしょうか?
(前々から、overQさんは民俗学にお詳しいようにお見受けするのですが
もしかするとそういった学部をご卒業なのですか?)

Posted by: LIN | March 26, 2007 at 13:25

>Miwakoさん
そうでした、Miwakoさん、「塩」についてお調べになったのですよね。
『塩の道』も読んでみたいです。
最近、日向と出雲と熊野と大和の関係について考えています。
もしかして、塩の道も、関連性はないかしらと、今、検索してみたら
大国主命が、出雲から諏訪に逃げる時、塩の道を通ったらしいです。
塩の道って、そんな古い時代からあるものなのですね!

Posted by: LIN | March 26, 2007 at 13:26

宮本常一 生誕100年 福岡フォーラム

5月27日(日) 13:00~17:00
アクロス福岡 円形ホール

フォーラム概要
主催者あいさつ[ 代表世話人 長岡秀世 ]13:00~13:10
ドキュメンタリー鑑賞[ "学問と情熱"シリーズから ]13:13~14:00
基調講演[ "家郷の訓"と私 原ひろ子 氏 城西国際大学客員教授 お茶の水女子大学名誉教授 ]14:05~15:20
パネルディスカッション[ コーディネーター 長岡秀世 ]15:35~16:45

パネリスト
武野要子 氏 (福岡大学名誉教授)
鈴木勇次 氏 (長崎ウエスレヤン大学教授)
新山玄雄 氏(NPO周防大島郷土大学理事山口県周防大島町議会議長)
佐田尾信作 氏 (中国新聞記者)
藤井吉朗 氏 「畑と食卓を結ぶネットワーク」
照井善明 氏 (NPO日本民家再生リサイクル協会理事一級建築士)

作品展示
宮本純子[ 宮本常一名言至言書画作品 ]
瀬崎正人[ 離島里山虹彩クレヨン画作品 ]
鈴木幸雄[ 茅葺き民家油彩作品 ]

Posted by: 宮本常一を語る会 | May 26, 2007 at 04:36

>宮本常一を語る会様
情報ありがとうございました。
私はうかがえませんが、フォーラムの成功を陰ながら応援しております。

Posted by: LIN | May 26, 2007 at 10:12

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