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April 17, 2007

『赤朽葉家の伝説』by桜庭一樹

赤朽葉家の伝説

サンカの民の末裔である“万葉”は、10歳の時に
紅緑村に置いていかれてしまう。
が、親切な若夫婦に拾われて育てられる。
紅緑村には、古くから製鉄所を営む名家、赤朽葉家があった。
“万葉”がその赤朽葉家に嫁ぐまでが第一部(1953~1975年)
“万葉”の娘、“毛毬”の物語が第二部(1979~1998年)
『毛毬』の娘、“瞳子”の物語が第三部である(2000年~未来)

『ベルカ、吠えないのか』を思い出した。
あちらは、犬を主人公にして描いた20世紀だったけれど、
こちらは鳥取の旧家に生きる3代の女たちを主人公にした
日本の戦後史。
長い歴史をテーマにしているのにもかかわらず、
どちらの作品も薄っぺらなところがよく似ている。

文体が軽いなあと思いつつも、第一部は
“万葉”やその周囲にいる人間がみな個性的で
エピソードに事欠かず、おもしろく読むことができる。
が、第二部になると途端にダメになる。
“毛毬”が暴走族という設定なのだが描き方がステレオタイプで
ぺっらぺらなのである。
私たちが頭に思い描く「暴走族といえばこんな感じ」そのまんまである。
主人公たちの物語と並行して書かれている日本の戦後史もベタ。
石油ショック、バブル景気…手垢にまみれた単語が並ぶ。
作家というのは、読者が知らない歴史を掘り起こすのが仕事であろう。
文体も、第一部はかろうじて文学してたが、第二部はいわゆるラノベ。
ストーリーは悪くない。
ああ、この内容で、もっと重厚な文体の作家が書いてくれたらと思う。

第三部で、“万葉”の孫娘である“瞳子”がいう。
「こうしてようやくたどりついた、現代。
語り手であるわたし、赤朽葉瞳子自身には、語るべき新しい物語はなにもない。
ほんとうに、なにひとつ、ない。」
これは、“瞳子”のセリフであるが、
語るべき新しい物語がないのは“瞳子”ではなく、
現代の文学のような気が私はする。
ネットを見る限り、この作品の評判はいい。
語るべき物語のない作家が書く作品を、語るべき物語のない読者が読む。
そんな時代なのかもしれない。

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Comments

こんばんは。
LINさんのblog他の文もいろいろ拝見しました。いやーLINさんの記事は面白いですね。本のジャンルも様々で、とても参考になりますわ。正直もっと早く知りたかったと思います。2年前の記事にいまさらレス書けないし(笑)
「ベルカ、吠えないのか」「犯人に告ぐ」は私もイマイチだったのですー。あ、でも「犯人…」はダメすぎですけどね。一緒にしたら「ベルカ…」が気の毒かも。そんな「犯人…」も映画になるそうで…手直しすれば映画の方が面白いかも。
宮部みゆきの「火車」は私は好きですよん。宮部作品でどれか一作、といばこれを奨めるかな。最後の余韻が好きなんです。「理由」は好きじゃないですね。「模倣犯」は疲れました。
どこかの記事で松本清張読んでると書いてませんでしたっけ。宮部みゆきセレクトの短編集は面白かったですよ。私は初松本清張だったんですけど、満足しました。芥川賞受賞作品の「或る小倉日誌」とかすごいいいですよ。
LINさんとは本の趣味が合いそうなので、これからもちょくちょく遊びにきたいと思います。よろしくです!

Posted by: ぎんこ | April 17, 2007 at 23:12

コメントありがとうございました。
(場違いレスですみません)

松浦寿輝は、なかなかムズカシそうな人なんですが、
あの時評の脱力かげんには少し驚きました。ただ、
紹介されているもののほとんどに同意できるところもあり、
ストレートで純粋な読み方ができるというのも
やはりすばらしいことだと思ったしだいです。

「風味絶佳」は、思わず騙されそうになりましたが
ダメですか。まあ、ぼくも基本的にはエイミーさんは
苦手カテゴリーなのですが。
噂の桜庭一樹も、ダメかもしれません。

Posted by: 浦山隆行 | April 18, 2007 at 02:35

>ぎんこさん
>LINさんの記事は面白いですね
ひゃー、ホントですか?
本当はぎんこさんのように理論的に書きたいのですが、幼稚な文章しか書けなくて…
今も、理論的という表現はちょっと違うように思うのですが、
こう、的確なことばが出てこないんですよね。
ボキャブラリー不足。
>2年前の記事にいまさらレス書けない
えー、そんなことないですよー。
よかったら書いてくださいな。
>「犯人に告ぐ」
ああ、これは、ピー子が「情熱大陸」で読んでいて買ったんです、確か。
もう、内容さえ覚えてない…(^^;
あ、今、検索したら、秋に映画化されるんですね。
6月にWOWOWで先行放送ですって。
劇場型犯罪って『模倣犯』もそうですよね?(マスコミを利用したのは犯人側だけど)
>宮部みゆき
私、『理由』→『火車』の順で読んだんです。
想像力が欠如しているので、よりノンフィクションに近い方が楽しめるタイプみたいで…
で、『火車』は何かリアリティが感じられなくて。
なんでだろう?
そのうち、もう一度、読み返してようかと思います。
>松本清張読んでる
読んでます~。
今、ちょっと中断してますが。
10代の頃、一番、読んだ作家が松本清張なので、読み返したいなと。
この間なんて、最後まで読んで「あ、これ、読んだことあるわ」と気がつく始末で(^^;
結構、忘れちゃってるものです。
短編もいいですけど、長編もノンフィクションもいいですよー、清張は。
あ、それから『カラ兄』もオススメ。
3年前に『カラ兄』を、昨年、『戦争と平和』を読んだのですが、
『カラ兄』の方が断然、よかったです、私は。
>よろしくです!
こちらこそ~♪

Posted by: LIN | April 18, 2007 at 10:13

>浦山さん
わかりやすいという事は危険な事なんだと誰かがいってたような気がしますが
それにしても『クロニクル』はするする読めちゃいますね。
あの本に紹介されていて、まだ読んでない本は全部、読みたいくらい。
時々、「ん?」と思う作品も紹介されてますが(『介護入門』とか)
それは好みの問題なのでしょう。
39ページの「文体の不在」なんて思いっきりうなずいてしまいました。
かくいう私も、こうして話すように書いてしまっているわけですが…
>「風味絶佳」
わかんないんですよねー、あれのよさが。
それこそ、松浦さんが否定されている読みやすい癒し小説じゃないかなと。
山田詠美が書きたかったというより、編集者のマーケティングによって
作られた小説という感じがしますが…
>桜庭一樹
ああ、確かに、浦山さんが読む感じではないかも…
(勝手に決めつけてすみません)
浦山さんの記事、楽しみにしておりますので、また書いてくださいねー。

Posted by: LIN | April 18, 2007 at 10:36

LINさんお久しぶりです!

>語るべき物語のない作家が書く作品を、語るべき物語のない読者が読む。

名文ですね~。
先日からお邪魔してはうっとりとこの字面をながめてます。^^
語るべき物語のない人物、はっきりみえないわさわさしたものを
邪魅の雫であえて挑戦した京極氏はすばらしいなぁと思うのですが、
いかがでしょうか。いや決して京極の中の傑作とはいえませんが。。

桜庭一樹、ちょっときになっていたので、参考になります。
今、ミクロコスモス読んでるんですけどね。
おもしろいです。丁寧に読む価値のある本は嬉しいですね。

Posted by: pico | April 19, 2007 at 10:55

>picoさん
いや~ん、picoさん、おひさしぶり~~(/ ̄▽)/\(▽ ̄\)~~
最近、picoさんとこ読み逃げですみません(^^;
さっき、ne_sanさんのとこで「あ、picoさん♪」って思ったとこ。
『邪魅の雫』ばっさり、斬ってしまってごめんなさい~。
いや、悪くないんですよ。
多分、水戸黄門の「この紋所が目に入らぬか~」的なものを期待してたのに
そのシーンがなくてあれっ?ってこけてしまった。
そんな感じでしょうか。
picoさんがおっしゃる
「はっきりみえないわさわさしたものを邪魅の雫であえて挑戦した京極氏はすばらしい」
という意見、わかります。
本の感想って「よかった」って書く場合「よかった」って書く以外なくて、
それでついつい批判してしまうのかもしれないです(^^;
この『赤朽葉家の伝説』、picoさんの感想を是非、伺ってみたいです。
機会があったら読んでみてね。
ミクロコスモス!
中沢新一ですか?
私も読みたいと思ってるんですけど、中沢新一の発言に時々「ん?」って
思うことがあって、私の中で彼の位置づけ、ちょっと微妙なんです(^^;
picoさんの感想、楽しみにしてますね♪

Posted by: LIN | April 19, 2007 at 11:26

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