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April 21, 2007

『親指のうずき』『グラン・ギニョール城』

※この記事は、ネタばれになりそうな箇所は、
ドラッグして反転で読むようになってます。

本格ミステリを2冊、読んだ。

親指のうずき

おしどり探偵トミー&タペンスシリーズ。
昨年、「奥さまは名探偵」というタイトルで映画化されました。

トミーとタペンスはおしどり夫婦。
ある時、二人は養老院にいるトミーの叔母さんを見舞いに行く。
タペンスはそこの入居者である老女に
「あの暖炉の奥に埋まっているのはあなたのお子さんなの?」
と聞かれる。
その後、トミーの叔母さんが老人ホームで亡くなる。
遺品を整理していたタペンスは、
その中の一枚の風景画に胸騒ぎを覚えた。
描かれている運河のそばの一軒家に見覚えがあったのだ。
しかもその絵のもとの持ち主はくだんの老女であり、
老女は失踪してしまっていた。
タペンスは絵に描かれた家と老婦人を探す旅に出るが…

読み終わって、ぽか~んとしてしまった。
絵に描かれていた家には思わせぶりのエピソードがたくさんあり、
これがどうつながっていくのかしら?とワクワクしながら読んだのだが…
ミステリーの落ちとして、アリなの?これは?
だって、結局、犯人である(ランカスター夫人)は(惚けている)ってことでしょう?
これはミステリーでよくいう“フェアプレイ”ではあるの?
何だか腑に落ちない作品でした。

グラン・ギニョール城

欧州の古城《グラン・ギニョール城》に招かれた名探偵ナイジェルソープ。
しかし、その閉ざされた城では次々と惨劇が起きる。
一方、帰阪の中途で怪死事件に遭遇した森江春策は、
調査を進めるうちに探偵小説『グラン・ギニョール城』の存在に
行き当たる。
やがて被害者宅に掛かってきた謎の電話の主が、森江にこう囁いた。
「グラン・ギニョール城へ……来たれ」。

途中、森江が(現実の世界から小説の世界に入りこんでしまう)のですが
それは(和歌山の山奥にあるホテルで日本人である劇団員たちが
探偵小説『グラン・ギニョール城』を演じている
)という設定なんですね。
それが何だかチープでねえ…。
私はむしろ(そのまま、本当に森江が小説の中に入りこんでしまった
という設定の方がよかったなあ。
たとえ、それによって、ミステリーとしては破綻してしまったとしても。
ラストでわかる犯人と動機もイマイチかなあ。
日下邦彦)がそこまでして(4人を殺したかった)理由がよくわからない。
ノイローゼ)だから?
犯人が(惚けいている)とか(ノイローゼ)だからってのは
やっぱりフェアじゃないと、私は思うんですよ。

私は、本格ミステリが大好きなのですけど、
本格ミステリって、時代に取り残された感がありますよね。
この2作品を読み
本格ミステリが生き残るための道って何だろう?
と、ふと考えてしまいました。

※本格ミステリ=推理小説のうち、謎解き、トリック、頭脳派名探偵の活躍を
主として書かれているもの

新たに6冊、購入。
『占星術殺人事件』島田 荘司 講談社
『論理の蜘蛛の巣の中で』巽 昌章 講談社
『チムニーズ館の秘密』アガサ・クリスティー 早川書房
『邪馬台国はどこですか』鯨 統一郎 東京創元社
『明智小五郎対金田一耕助』芦辺 拓 東京創元社
『アラビアの夜の種族』古川 日出男 角川書店

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Comments

うお、推理小説ですか!
僕は推理小説ってあまり興味がないです。
って、いきなり記事を否定するようなこと書いてすみません。
うーん、でもまったく読まないわけではなかったです。興味が無いのは謎解きかなあ。
好きなのは京極堂シリーズに高村薫作品にシャーロックホームズと、謎解き以外に面白い要素があるものが好きみたいです。
でも謎解きに興味ある人って知的なイメージがあってなんか羨ましいです。
あ、『笑う警官』マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーはとても面白かったです。

Posted by: kyokyom | April 22, 2007 at 17:15

>kyokyomさん
今日、日本のミステリーの歴史について書いてある本を読んでいたんですけどね。
まず乱歩が登場するわけです。
だけど、高級文学作家志向の作家や読者からはエログロ趣味だと
まゆをひそめられるんです。
で、甲賀三郎という人が、乱歩のような推理小説を「変格」、
欧米型の論理的な推理小説を「本格」と呼ぼうと提唱したんです。
(“推理小説”という名前もこの甲賀さんが命名)
そこに木々高太郎さんという文学体質の作家が登場して
「探偵小説を文学たらしめなくてはいけない」といいだしたのです。
で、欧米型の論理的な推理小説をめざそうという提案はぶっ飛んでしまって
探偵小説を文学にすることが切実な問題になっていくわけです。
そこに松本清張登場。
いよいよ、探偵小説は文学になり、しばらく社会派推理小説黄金期が続きます。
で、時代が平成に入り、コード派と呼ばれる人たちが現れます。
彼らがやっと甲賀さんが命名した「本格推理」を書き始めるのですが
「本格推理」というのは小説を高度にゲーム化したもので、
登場人物に背景がなく、ゲームの駒化してしまってるんです。
さあ、ではこれから推理小説はどうなっていくべきか。
今は、そんな時代にいるんです。
長々と説明しましたのは(笑)、推理小説=「謎解き」とは限らないということを
いいたくて。
以前、行き詰った現代文学をSFが突破口になるんじゃないかと書いたのですが
また、ミステリーも現代文学と融合できないのかと、そんなことを漠然と
考えておりました。
『笑う警官』おもしろそう。
警察小説なのですね。
ハード・ボイルドではないのでしょうか?(ハード・ボイルド苦手)
警察小説だと、エド・マクベインの87分署シリーズがおもしろいと
聞いたことがあります。

Posted by: LIN | April 22, 2007 at 19:01

こんにちは。
内容ではなくて、ドラッグして反転して読むということに感動しました。これ、みんなやってるんですか?
でも、どうしても反転させたくなってしまうのです、これが。

Posted by: uota | April 22, 2007 at 19:37

わあ、長いお返事ありがとうございます^^
推理小説ってそんなにも広い分野なんですね。推理小説という概念の中に謎解きが含まれているものに過ぎないってことでしょうか。
松本清張は、歴史物を読んでみたら面白かったです。天保と享保(寛政かな?)の改革についてそれぞれ書いていました。清張は多才ってイメージです。推理小説はどうなんでしょう?今読んでも古くないのかなあ。

LINさん、ハードボイルド苦手なんですね^^
うーん、でもハードボイルドってきっちり定義が決まっているのかなあ。
たとえば僕には、高村作品は女の書いたハードボイルドって面があるように感じております。
『笑う警官』はいいですー。高村作品にも共通するのですけど、あの捜査が行き詰っている時の警察内に漂う行き場の無い倦怠感とか描けているのが好きです。最後はアッと言わせてもらいました。
87分署シリーズは二作ほど読みましたが、けっこう面白かったです。
ルース・レンデルの『ローフィールド館の惨劇』が・・・面白かったけど、推理小説だったのかなあ、あれ。
ではー。


Posted by: kyokyom | April 22, 2007 at 20:07

こんにちは。
「笑う警官」は、マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーによる
「マルティン・ベック」シリーズ(全10作)の第1作です。
1960年代のスウェーデンを舞台にした警察小説ですが、
今読んでもとても面白いです。
最高作はやはり「笑う警官」でしょうけれど、全10作・駄作はありません。
第8作「密室」では犯人が捕まらずにまんまと逃げおおせてしまうという、
警察小説としては掟破りともいえる大技が炸裂! 
しかもおおいに笑える怪作です。
出てくる警官のキャラがどれも濃くて、順に読んでいくと絶対はまります。
「87分署」をお手本に書かれているそうですが、
エド・マクベインにはない重厚さが感じられます。
絶版ですが、中古でわりと簡単に入手できます。

ところで、いわゆる「本格ミステリ」って、ジャンル的にはやや行き詰まり感というか、
成熟しきってしまった感がありますね。
これからはホラー・サスペンス的な方向か、捜査活動をリアルに描く警察小説方面、
あるいはSF方向にシフトしてゆくのかなあ。

Posted by: 木曽のあばら屋 | April 22, 2007 at 21:23

>uotaさん
>これ、みんなやってるんですか?
主にミステリーの感想を書いているブロガーの方はやってらっしゃいますね。
ミステリーの感想ってネタばれなしで書くのむずかしいから(^^;
HTMLで文字色を背景と同じ色に指定すればできます。
ただ、RSSで読む場合、RSSリーダーによっては機能しないそうです。
>どうしても反転させたくなってしまうのです
あはは、それじゃ、隠した意味がないなあ(笑)
今、“本を読む人々”のお友達と、書評を書く場合(ミステリーに限らず)
ネタばれの問題をどうしたらいいかという話をしてます。
最初に「ネタばれあり」と書いて、記事との間を思いっきり改行するとか。
そのお友達は、「ぼかし」のテクニックを向上させたいといってました。
それがベストですよね。
ミステリーも、もっと文章力があれば、ネタばれなしで書けるのかもしれないなあ(^^;

Posted by: LIN | April 23, 2007 at 10:33

>kyokyomさん
>推理小説という概念の中に謎解きが含まれているものに過ぎない
あ、そうそう、そういうことです。
一口に「推理小説」といっても、いろいろあるってことですね♪
>高村作品にも共通する
おー、高村ファンとしては、それは読まなくちゃいけないですね。
実はハードボイルド同様、警察小説もちょっと苦手だったりするんです(^^;
高村さんのそれは、警察小説といっても、人間に味があるんですよね。
>ローフィールド館の惨劇
洋館物好きなので、気になります~。
でもね、洋館物のミステリーが好きなくせにホラーがダメなんですよ。
洋館が出てくるミステリーって限りなくホラーに近いものが多いんですよねえ。
ダメぢゃん。
ハードボイルドがダメとか、警察小説が苦手とか、ホラーが怖いとか、
本読みとして失格ですにゃ(^^;

Posted by: LIN | April 23, 2007 at 10:41

>木曽さん
うわー、木曽さんは「マルティン・ベック」シリーズを全部、読まれているんですね。
そんなにおもしろいのですか。
>マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
わお、夫婦なんですね、この二人。
古本が苦手な私ですが、見つけて読んでみますね。
>「本格ミステリ」って、ジャンル的にはやや行き詰まり感
なんですかねえ、やっぱり。
ドラマで「女三人湯けむり殺人事件」といった2時間ドラマがあるじゃないですか?
あれって、根っこは「本格ミステリ」だと思うんです。
あの手の2時間ドラマがなかなかなくならいってことは、日本人って
「本格ミステリ」の類が好きなのかなあって。
ニンテンドーDSのゲームでも、「本格ミステリ」要素のある
「逆転裁判」なんか人気あるし。
>ホラー・サスペンス的な方向
ああ、これはありますね。
昨年の「このミステリーがすごい」第1位は『独白するユニバーサル』で
ホラーですもの。
いつも「このミス」1位は読むようにしてるんですけど、ホラー苦手なので
今回のは読めなかったです~。・゚・(ノД`)・゚・。

Posted by: LIN | April 23, 2007 at 11:06

先走って島田荘司のことを書きます。奇遇なことに、わが家はいま御手洗潔ブームなので。『占星術』はとくにすぐれた作品だと思います。そして国産の名探偵といえばやはり御手洗潔でしょう。ご存知の探偵榎木津なんかはおもいっきり御手洗の焼き直しで、多くの名探偵が御手洗の影響のもとに形づくられています。わたしが彼の作品を集中的に読んだのはもう十年くらいまえなのですが、先般『占星術』の舞台が京都だと知って興味を抱いたほたさんがとつぜん島田荘司を読みはじめすっかり御手洗くんにハマってしまい育児放棄も甚だしい有様で盛り上がって盛り上がって仕方がありません。つられてわたしもひろい読みで、『占星術』におけるあの歴史的な名場面はやはり哲学の道、そういえばついこのまえ歩いたばかりだった哲学の道のあの猫を撮影したあの喫茶店があの喫茶店だったなんて! とかとか、十年も経てば仔細はほとんど忘れていてはじめて読むみたいにおもしろいのでいま『眩暈』くらいまでの御手洗シリーズをぜんぶ読み返しておきたいような気持ちになっています。

Posted by: Rym | April 24, 2007 at 01:30

>Rymさん
新本格ミステリについてあれこれ検索していますと、
ベスト1に島田荘司の『占星術殺人事件』をあげている方が多いんですよね。
それで、購入したわけです。
そうですか、ほたさんもはまってらっしゃるのですか。
育児放棄って(笑)
子育てされている女性は毎日、毎日、家事と育児に
追われていますからね。
男性の想像を絶するストレスだと思いますよ。
せめてRymさんが家にいる時は、ほたさんに思う存分、
本を読ませてあげてください。
>『占星術』の舞台が京都
そうだよね、新本格の聖地といえば京都ですものね。
Rymさんも、新本格ミステリをお書きになってみるってのはどうでしょう?
新本格ミステリと純文学の融合なんてのもおもしろいかもしれないですよ。
Rymさんは、ミステリの評論にはあまりご興味ないですか?
上で挙げた『論理の蜘蛛の巣の中で』がネットで大変、評判がよいようです。
法月さんが最近、出された『名探偵は何故時代から逃れられないのか』も
おもしろそうなんだよなあ。

Posted by: LIN | April 24, 2007 at 11:02

島田荘司を新本格に含めるなら『占星術』がベスト1というのはわたしも同じです。LINさん好みの洋館こそ登場しないけれど、魅力的な謎と酩酊探偵と論理的な解決という本格ミステリの要素がみな高いレベルで備わっていてしかも読者への挑戦状まである。思わず丸パクリしてしまって表紙に「占星術殺人事件のトリックを用いています」と記載しているマンガがあるほどですから、すさまじい影響力だといえます。

ミステリに限らず評論にはあまり手をつけてないのですが、興味がないことはなくて、むかしは巽昌章や千街晶之なんかもけっこう読んだほうです。でもわたしは京極夏彦・森博嗣以降の、高田崇史、殊能将之、舞城王太郎、西尾維新、佐藤友哉のあたりはもうまったく触れていないので最近の評論はうまく読めないでしょうねえ。法月さんは小説はいまいちだけど評論は充実してる感じで、それはみんなの評論リーダー笠井潔に書け書けといわれるから仕方なく書いてしまう面もあるのらしくて、この笠井潔というのが以下略。島田荘司は評論もわかりやすくて好きですよ。

純文学だと思って読んでいたら最後にひっくり返されるような物語を読んでみたいという気持ちはあります。あまり舞台装置に囚われすぎなければ、あるいは探偵さえ登場しなければそれなりのものにはなるんじゃないかというようなことはかれこれもうずっと考えつづけていることではあるのですが断片ばかりがふえていってどうしようもない状態ですいまのところ。

Posted by: Rym | April 25, 2007 at 20:23

>Rymさん
今、半分ほど読み終えたところです。
御手洗が榎木津のモデルってわかるわあ。
今のところ犯人も動機もさっぱりわかりません。
ただ、このまま、平吉の狂気の物語としては終わってほしくないなあ。
>思わず丸パクリ
名探偵コナンもそうなんですってね。
「本を読む人々」のメンバーの方に教えていただきました。
>純文学だと思って読んでいたら最後にひっくり返されるような物語
読みたい、そういう作品。
なかなか、ないよね。
桜庭一樹の『赤朽葉家の伝説』はそのあたりを狙ったんだと思うんですが
いかんせん、もともとがラノベ作家なので文体が…
日本の文学がみな、ラノベ的文体になってしまったらどうしようと
ガクブルですよ。
(だって、ラノベとかボーイズラブ小説ってすごく売れているんでしょう?
それらが日本の文学を席捲してしまったらと思うと…)
倉橋由美子が
「今日では、普通の人は本を読まず、手紙その他の文章も書かず、
読んだり書いたりするとしても、文章らしい文章は敬遠して、
しゃべるように、あるいは携帯電話のメールのように書き、
またそんなスタイルで書かれたものしか受けつけないようになってます」
といったのは、まさしくその通りですね。

Posted by: LIN | April 26, 2007 at 10:31

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