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August 04, 2007

『ヘンリ・ライクロフトの手記』『夜の来訪者』『海からの贈物』『円朝芝居噺 夫婦幽霊』

●今週、気づいたこと
・今さらながら、味噌汁の具は2種類より3種類の方がうまい。
めんどうでも、料理は、いろいろな素材をちょっとずつ入れた方が
味が複雑になっておいしくなる。

・賞味期限の長い食品はまずい。

●今週読んだ本
『ヘンリ・ライクロフトの手記』byギッシング
ヘンリ・ライクロフトの私記

「およそ読書人と呼ばれる人の本棚にこれがないことはありえない」
と岡崎武志著『読書の腕前』には書いてある。
自分を“読書人”だとは思わないし、
そもそも何冊読めば“読書人”なの?という反発も感じるが、
好奇心に勝てず、読んでみた。
この本は、長い貧困生活ののち偶然知人の遺産を得て、
老境に至り初めて安息の日々を送ることが可能となった
ギッシングの友人であるヘンリ・ライクロフトという作家の手記
という体裁になっているが、ギッシングの創作である。
貧しく不遇な作家という意味で、ギッシング自身の人生と重なるわけだが、
ライクロフトと違うのは、ギッシングは遺産を手に入れることもなく、
貧困のまま死んでいったということだ。
作品の前半は、自然への賛歌、本を読む喜びに溢れている。
が、後半では、自分がかつてお金がなかった時の苦しみが繰り返され、
社会への批判が増える。
また自分は幸せだと無理に納得させようとしているようにも思える。
結局、ギッシングは作品の中でライクロフトにはなりきれなかったのではないか?
この本の訳者である平井氏は
「作者が自らの描く虚構の人物にいわば乗りうつっている」と解説に書いているが
私にはライクロフトが亡霊のように見える。
結局、読み終えてみると、私にはライクロフトの喜びよりも
ギッシングの哀しみの方が身に沁みた。

『夜の来訪者』byプリーストリー
夜の来訪者

戯曲。
舞台はある裕福な実業家の家庭。
娘の婚約を祝う一家団欒の夜に警部を名乗る男が訪れ、
ある貧しい若い女性が自殺したことを告げ、
全員がそのことに深く関わっていることを暴いていく。

短いので、2時間もあれば読める。
ラストはぞぞっとくる。
ミステリーでもあり、社会派小説でもある。
二重どんでん返しということで、クリスティの『検察側の証人』を
思い出させる。

『海からの贈物』byアン・モロウ・リンドバーグ
海からの贈物

女はいつも自分をこぼしている。
そして、子供、男、また社会を養うために与え続けるのが
女の役目であるならば、女はどうすれば満たされるのだろうか。
有名飛行家の妻として、そして自らも女性飛行家の草分けとして
活躍した著者が、離島に滞在し、女の幸せについて考える。

20代の時、仕事の関係で参加しなければならなかったある読書会で
この本を読んだことがある。
若くて傲慢で夜遊びばかりしていた私はこの本に書いてあることが
さっぱりわからなかった。
しかし、今は心にしみる。
「そうそう」とうなずいたり、「そうだったのか!」と得心したり。
男性が読んでも生きていくうえでのヒントになると思う。

本当の自分というものは、
「自分自身の領分で自分を知ること」によってしか得られない。
(本文中より)

『円朝芝居噺 夫婦幽霊』by辻原登
円朝芝居噺 夫婦幽霊
怪談ものを得意とし江戸から明治にかけて活躍した落語家、三遊亭円朝。
作者は、ふとしたことからその円朝の口演速記録を手に入れる。
解読してみると未発表作品である。
この本はそのいきさつと、その作品が掲載されているが…。

辛口の感想になる。
私の中では円朝といえば「芝浜」である。
元落研ではあるが、正直、怪談噺はよく知らない。
しかし、この「夫婦幽霊」はいかがなものか。
円朝の作品ということになっているが、
この本の中では最終的に
有名作家○○○○○と円朝の関係者○○○の創作であろうと
結論づけられている。
そうはいっても、夢を壊すようだが、著者である辻原さんの作であろう。
私はあまりデキのいい噺ではないと思う。
強欲な夫婦が3組、登場する。
多すぎである。
悪役ばかりだと悪役がひきたたない。
誰一人、同情できる人間がいないので、ぐっと来ない。
ホームズ役の佐久間さまがちょっとステキというくらいだろうか。
オチもきっちり作っていただきたかった。
また「円朝の作としてはイマイチではないか…」といわれた時の
保険なのか、「いやいや実は○○○○○と○○○の共作なんですよ」
としてあるあたりがずるい。

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Comments

こんにちはー。

スーパーでも、海外のお菓子を売ってるじゃないですか。
以前、どっかの国のロールケーキのようなものを買ったら、
(見た目はおいしそうでした)
賞味期限が1年半以上あってびっくりしました。
どんだけ保存剤が入ってるんだろう。
おそるおそる食べたら、やっぱり不味かったです。

本についてレスしなくてごめんちゃい。
実は4つとも未読。どれも、興味ありありです。読む読む。

Posted by: きみ駒 | August 04, 2007 at 15:34

>きみ駒さん
やほー。
え?ロールケーキで賞味期限が1年半?
それはちょっとすごい。
賞味期限が長い食べものって、食べられるのだろうけれど、
結局、食品としてはすでに死んでいるのですよね。
生きている食品だけを食べていきたいです。
自分自身の生命力が弱っているからなのか?(笑)
今回の4冊の中では、特に『海からの贈物』がオススメです。
エッセイです。

Posted by: LIN | August 04, 2007 at 16:43

「真景累ヶ淵」はゴッサおもろいですよ。
圓生百席のうち、おそらく滑稽噺はどうかとおもいます。しかし、人情話と怪談話はすごいです。
LINさんは圓生嫌いそうだけど。
「牡丹燈籠」とか、僕はかなり好きです。

Posted by: lsty | August 04, 2007 at 19:42

>lstyさん
昨日、公開の「怪談」は「真景累ヶ淵」を映画化したものなんですよね。
今年は、円朝がブームらしいです。
円生は聞いたことないんです。
今、試聴してみましたが、確かに怪談向きの声ですね。
Amazonランキングを見ると、「真景累ヶ淵」が一番、売れてます。
lstyさんに上で紹介した『円朝芝居噺 夫婦幽霊』を読んでいただき
落語としてどうなのか評価してほしいなあ。

Posted by: LIN | August 05, 2007 at 08:23

『海からの贈物』大好きな1冊です。
いつでも読めるように枕元に置いてます。
ふと開いたページに今私に必要な一言がいつも見つかる・・・そんな本です。
同じ作者の『翼よ、北へ』もよいですよ。

Posted by: dumpty | August 05, 2007 at 19:16

わたしは、味噌汁の具は2種類までがいいなぁ。

Posted by: ユイー | August 05, 2007 at 21:27

はじめまして、カンナと申します。「本を読む人々」で、アチコチ覗き見していて、こちらにも何度か伺いました。今日は辻原さんの小説が、話題なので、つい…お邪魔致します。私自身は関西人で、江戸落語が全く解らないまま小説として読みました。その為、LINさんの御指摘を、只へーそうなんだ、ぐらいの間の抜けた反応しか出来無いのですが(笑)、お笑いを上方は娯楽、江戸は文化として捉えている違いなのかな、とつらつら読みました。映画もそうですが、谷中の全生庵では円朝が集めた幽霊画の前で、落語会が開かれるそうで、一度「円朝作」の怪談を直に聞いて(現在東京在住なので)、本も読み直してみたいと思っています。

Posted by: カンナ | August 05, 2007 at 23:34

>dumptyさん
『海からの贈物』は、すべての女性に読んでほしい本ですよね。
最近は、男女平等社会の弊害なのか、小説にしてもエッセイにしても
女性の生き方を徹底的に考え抜いた作品が少ないように思います。
(私が見のがしているだけかもしれませんが…)
今、ちょうど私はいろいろ悩むお年頃なので(笑)
こういう本は身にしみます。
>『翼よ、北へ』もよいですよ。
ご紹介ありがとうございます。
旅行記、好きです。
読んでみたいです。

Posted by: LIN | August 06, 2007 at 08:05

>ユイーさん
私もずっと2種類派だったんですが、ふと、具を増やしてみたら、
味が複雑になっておいしかったのです。
色どりもきれいですし。
さすがに、あさりやしじみは万能ねぎをちらすくらいですが、
特に野菜系はいろいろいれるとおいしいですよん♪

Posted by: LIN | August 06, 2007 at 08:09

>カンナさん
はじめまして~。ようこそ~♪
カンナさんは辻原さんのファンでいらっしゃるのでしょうか?
私の感想がカンナさんをご不快な気分にさせてないと
いいのですが…(^^;
(私は、できるだけ感じたままを書きたいと思っているのですが、
どうも人によっては不愉快に感じる方もいらっしゃるみたいなので…)
>お笑いを上方は娯楽、江戸は文化として捉えている違い
私もお笑いは娯楽だと思ってますが、そうですねえ、
落語はまた、ただの娯楽とはちょっと違いますかね。
でも落語に関しては上方でも、いわゆるお笑いとは区別されているのではないのですか?
吉本と同じ感覚なのかな?
私は上方落語についてはさっぱり知識がないのでよくわからないのですが…
ただ、私が、辻原さんの落語に感じたのは、そういう難しい話ではなく、
単に、落語として今ひとつかなあということなのです。
(辛口です、すみません)
辻原さんは「どなたか『夫婦幽霊』を高座にかけてくれたら、うれしい」
と、おっしゃってるようなんですが…
>谷中の全生庵
幽霊画があることは知ってましたが、落語会も開かれるのですね。
誰がやるんでしょう?
(検索中)
おお、今年から「落語協会感謝祭~円朝記念」と名前も変わり、
屋台なんかもあったんですね。
まるで落語家の文化祭のようで楽しそうです(笑)
http://www.rakugo-kyokai.or.jp/Festival/Handbill.aspx

Posted by: LIN | August 06, 2007 at 08:50

再度、お邪魔致します。あっ全然です、全く不愉快な思いをしていませんし、もししていたら「不愉快だ」という種類の書き込みはしません。
荒川洋治さんが、笙野頼子さんをボロクソ書いても(笙野さんは好きです)上手いこと書くなあ~と感心していたくらいです。今まで日本人作家をあまり読まなかったのですが、最近ボツボツ読み出した数少ない小説の一つだったのです。それで、まあ評価は保留という中、LINさんの感想を拝見し…と言う経緯です。落語は全く初心者なので、文字通りへー、そうなんだ状態です(笑)上方落語についても、あまり語るべきことを持たないのですが、昨年大阪に「天満天神繁昌亭」という定席が60年ぶりに復活しまして、何度か帰省の度に足を運びました。上方の落語家さんの多くは吉本に所属し、NGK(なんばグランド花月)で、漫才と新喜劇の間に、落語というより漫談のようなことをし、落語会はそれこそ、京都の鰻やさんとタイアップした「鰻寄席」や、百貨店のホールで催され、ギャラがバーゲンの靴だった(笑)と言う話まであり、長らく不遇を託つ中での、桂三枝会長、涙の定席復活でした。江戸落語は今ボツボツ聞き始め、その足がかりが時期的に「円朝」だったと言うわけです。LINさんは、江戸落語にお詳しいのですか?もし良かったら、今聞ける落語家さんでお気に入りの方を教えて下さい。この4月にお江戸に来たばかりなので、志の輔さん、花禄さん、そのお二人のお弟子さんぐらいしかナマで聞いたことがありません。上方は…そうですね、落語についても表立って「文化」と言う捉え方をしていないように私は感じます。どこまでも曖昧が上方なのではと(笑)

Posted by: カンナ | August 06, 2007 at 11:07

>カンナさん
気分を害されていなくてほっとしました。
おお、荒川さんの笙野頼子論、読んでみたいです。
笙野さんの作品は一時期、集中して読んだのですが、
最近、読んでないなあ…
>「天満天神繁昌亭」という定席が60年ぶりに復活
よかったですよね~。
あのニュースは嬉しかったです。
お江戸でさえ定席は少ないですから、ひとつでも多く増えるといいなあと
思います。
>江戸落語にお詳しいのですか?
前は寄席にもちょこちょこ行ってましたが、最近はさっぱりです。
花禄さんはうまいですよねえ。
その世代だと、志らくさんも評判いいですが、私が好きなのは柳家喬太郎さんですかねえ。
でも何といっても好きなのは、志ん生と談志です。
がらがら声に弱いんです(笑)
どうぞ、これを機会に今後とも仲良くしてくださいね♪

Posted by: LIN | August 06, 2007 at 12:27

>『夜の来訪者』
もお~、LINさんいつも課題本読むの早いんだから。めっ^^

みそ汁については、具は一種類でいいんじゃい、と士郎が言って新婚当初の山岡士郎と栗田ゆう子がけんかしていました(笑

ギッシングをはじめとして生きている間に認められない芸術家って自分を不幸だと感じていたのだろうか?と疑問に思ってしまいます。認められたいという気持ちがないとは思わないけど。うーん。。。

Posted by: kyokyom | August 06, 2007 at 19:04

わたしは、具沢山味噌汁からの引き算派なのです。(えへへ)
なので、今後は彼の究極のメニュー山岡士郎さんの教え通り(?)一種類まで引き算しちゃうかもしれません。 っつーか、既に、一種類で作る事も多かったりしますが、それは只の手抜きです。(わはは)

Posted by: ユイー | August 06, 2007 at 22:22

>kyokyomさん
>いつも課題本読むの早いんだから
いや、管理人としては、イチ早く課題本を読んでおいて、
みなさんの感想に迅速に対応したいと思ってまして…(^^;
今回は特に、私が推薦した本ですし。
マジメでしょ?(笑)
>具は一種類でいいんじゃい、と士郎が言って
ええ、マジで?
でも、それって豆腐にしても、我々、庶民が買うようなスーパーの豆腐じゃないんでしょ?
飛騨高山から取り寄せた一日十丁限定の豆腐みたいなやつなんじゃないの?
>生きている間に認められない芸術家
ギッシングに関しては作家として名声を得たいという気持ちは強かったと思います。
友人のH.G.ウェルズはすでに成功していたわけだし。
でも私は、生きている間に高い評価を得られるかどうかよりも、
自分が納得できる作品を書きあげられるかどうかが
作家の幸福感につながるんじゃないかと思います。
ギッシングの場合、自身の作品に納得してなかったんじゃないですかねえ。

Posted by: LIN | August 07, 2007 at 09:31

>ユイーさん
具沢山味噌汁は体験済みでしたか。
一種類、どうなんでしょう?(^^;
kyokyomさんへのお返事にも書いたのですが、
山岡の場合は、豆腐ひとつとっても、我々庶民が買うスーパーの豆腐でなく
究極の豆腐を使うのでは?
それなら一種類でも充分、おいしいとは思いますが…
いやあ、味噌汁は奥が深いですね。

Posted by: LIN | August 07, 2007 at 09:35

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